私の登山始め

小学校卒業の春休み 高校生の兄に連れられて

 僕の山の登り始めは、小学校を卒業した時の春休みだった。5歳年上の高校に通う兄貴に連れられて、東京近郊の奥武蔵の山に行った。

 

 僕の実家は東京都下(昔はそう呼んでいた。練馬区の外側だ。)にあった。家は西武新宿線の東伏見の駅から徒歩7分くらいの所。家を出て駅に向かう途中、後ろを振り返ると、西の彼方に青く輝く山々が見えた。この山々を見るのがいつの頃からか好きだった。

後から知った、次の詩のような心境だったのだと思う。

 

 山のあなたの空遠く

幸い住むと人の言う

 ああ われ人ととめゆきて

涙さしぐみ 帰りきぬ

 山のあなたになお遠く

幸い住むと人の言う

 

そのころはまだ記録をつける習慣はなかった。遠い記憶によれば、名栗湖の奥の有馬山(1213m)が登りはじめの山だ。確かこの近くにあった山小屋に泊まった。朝はサンマの開き、これがとてもおいしかった。

翌日はここから、尾根伝いに武甲山を目差した。アップダウンを繰り返し、大持山を越え、小持山を越え、武甲山(1304m)に登った。途中食べた国光のリンゴがとてもおいしかった。武甲山の頂上に立った時には、恐らく体力を使い果たしていたのだと思う。春休み、山の北の斜面は雪解けが始まっていた。滑りやすく、膝にガタが来ていたので、その辛かったこと。何度尻もちをついたことか、半べそだった。兄貴は黙って待っているだけだった。

下りは多分羊山公園を通り抜け秩父まで歩いたのだと思う。遠かった。そこからはどうやって家に帰ったかは覚えていない。

12歳の春、大分前の話だ。これが僕の登山の原点だ。この時きっと、僕の脳の中に脳内麻薬が大量に分泌されたのだと思う。あんなに辛かったのに。